割当制といふ病気


■ノルウェー政府「女性取締役を4割に」

 新聞の片隅に載つてゐたので御記憶の方もをられるかもしれないが、ノルウェー政府が企業に対して取締役の四割を女性にするやう義務づけると発表した。民間企業や政府系企業を対象に今後この政策の実行を求めていくといふことらしい。

 これはいはゆるクオータ制(割当制)といふやつで、スウエーデン、デンマークなど北欧諸国にはこのクオータ制といふ病気が狂牛病のやうに広がってゐる。

 ノルウェーでは1978年に男女平等法が成立し、1988年には男女平等法の中に「4人以上の構成員からなるすべての審議会・委員会・評議会などは任命・選挙を問はず、一方の性が40%以下となつてはいけない」といふクオータ制が導入された。

 政党も多くは比例代表候補者名簿などにクオータ制をとり入れてゐて、現在では国会議員も地方議員もほぼ4割が女性だ。公務員も、採用・昇格の際の女性の割合は4割が目標となつてゐる。

 1986年にはグロ・ハーレム・ブルントラントが初の女性首相となり、第一次ブルントラント内閣には8名の女性閣僚が任命された。以来女性には閣僚ポストの4―5割が割り当てられてゐる。

 クオータ制といふ病気の特徴は、一度この病気に罹るとなんでもかんでも割当制にしなければすまなくなることだ。

■割当は国を弱体化する

 ノルウェーには、保育園や小学校など女性の占める割合が高い職場で一定範囲まで男性に優先権を与へるといふ法律がある。これは一見男性に寛容な政策にみえるが実はさうではない。

 看護婦といふ呼び名をやめて看護師にしようとか、保母を改めて保育士にしようとか、女子高校をやめて男女共学にしようとかいふのと全く同じ発想で、要するにあらゆる分野において男と女の区別
を消滅させようといふフェミニズム的政策にすぎない。

 男の職場、女の職場、男の仕事、女の仕事といふ区別をなくすのみならず、男と女の割合を機械的に同数にする。北欧諸国のこの気違ひじみた情熱はほとんど病気としか言ひ様がない。これらの国で
はほかにもつと考へることがないのだらうか。

 企業に取締役の4割を女性にせよいふのは会社の組織を根本から見直ほせといふに等しい。

 社長は本業そつちのけで女性取締役人事に頭を悩ませなければならない。人事発令が終ると、今度は実力不相応な取締役がヘマをやらかして会社にダメージを与へないかと心配しなければならない。
国民の勤労意欲が低くて、北欧企業はただでさへ生産性が低いのに、これ以上競争力を低下させてどうするつもりだらう。

 アメリカ文明史家のD・ブーアスティンはその著書『過剰化社会』の中で、「アメリカを割当て国家にしてはならない」と警告してゐる。

 アメリカの伝統は「人種や性や年齢による数量上の区分に制約されるやうな割当て制のないものでなくてはならない」。従つて、「人種や性や生活水準を理由に資格がないとするのも、あるいはそ
れを逆に資格条件とするのも、いづれも他のアメリカ人同胞に対しての尊敬を忘れ、国を弱体化することになる」とブーアスティンは言ふのだ。

■「実力のないひとが出てきても恥をかくだけ」

 戦後の女性国会議員のはしりで、先ごろ104歳で亡くなつた加藤シヅエが数年前、とてもいいことを言つてゐた。政党が女性に立候補を呼び掛けるのは結構なことだけれども、「実力のないひとが出てきても恥をかくだけだからやめた方がいい」と。

 たしかに女性といふことだけしか売り物がなくては、彼女のやうに衆議院議員二期、参議院議員四期もつとめるのは困難だらう。

 実力がないと恥をかくだけ。これは実に古今東西人間社会に通用する真実である。しかし今は恥の感覚のない人間がもてはやされて、「恥をかいても議員になれるなら」といふ時代だ。

 世の中に無能な人間がのさばつてゐることほど腹立たしいことはない。そんな会社に勤めてゐると精神衛生上よくないことは経験上誰でも知つてゐる。

 一説によると、OLは女の上司をいやがる傾向があるさうだ。しかし上司が女であるだけでなく、その上司が無能だつたらこれほどの悲劇があるだらうか。

 フランスでは昨年の統一地方選挙から、候補者を男女半々に割り当てる「パリテ」といふ制度が導入され、各党が競つて女性の芸能人やスポーツ選手を擁立した。パリテの導入は女性票を当て込んだ
ジョスパン政権の人気取り政策だつたが、時代遅れのタレント選挙がフランス全土に繰り広げられ、フランスの政治的伝統は地に墜ちた感がある。

 クオータ制は女に対する最大の侮辱と言へる。「女を馬鹿にするな!」 そんな女の声はフランスでも北欧諸国でもないわけではなかつた。しかし結局、さうした声は口当たりのいいポピュリズムの
歓声にかき消されてしまつたのだ。当の女性候補者自身も内心「割当制は不自然な制度」と思つてゐるが、議席ポストの誘惑には抗し難いらしい。

 かうして女の鼻面に議席といふニンジンをぶらさげるニンジン選挙が世界中に広がつてゆく。ニンジン選挙の次はニンジン取締役か。「女を馬鹿にするな」と声を上げる女性だけが政治家や取締役にふさはしい資格を有してゐるといふのに。


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