人為的につくられる「待機児童」



 前回に続き保育園の話。
 
 少子化問題の解決に向けて保育園の待機児童を解消せよといふ大合唱が起きてゐる。女性が安心して子供を生んで働けるやうに保育園をもっと増やせとフェミニストが騒ぐ。だけど保育園の「待機児童」ってそもそも何なのだ?

 認可保育園に入所するために待機していてゐる児童、これを待機児童といふらしい。特別養護老人ホームに入所待ちをしてゐる老人を待機老人といふ。施設の空きを待ってゐるといふ点で待機児童と待機老人はよく似てゐると思ふ。待機老人は待機中に老化が進むと特養ホーム入所の必要性が増大するが、その間に死んでしまへば入所する必要性は消滅する。待機児童も待機してゐるうちに成長してしまへば保育園に入所する必要性は消滅する。その点でも両者はよく似てゐる。

 でも、どうして待機児童などが生ずるのだらう。だって、全国の保育所の平均入所率は88%。保育園はどこも大幅に定員割れしてゐてガラガラなのに。地方では保育園の統廃合が急ピッチで進められてゐるほどだ。

 数字の上では都市部で確かに待機児童が存在する。一応、二万人ゐることになってゐる。それでは、この二万人の待機児童の母親たちは、希望の保育園に空きが出るまでじっと家で子供の世話をしてゐるのだらうか? そんなことはない。第一希望の保育園に空きがない場合には、とりあへず子供を他の保育施設や保育ママに預けて働きに出る。これを待機児童と称する。だから待機児童とは正確にいふと、家の近くで、保育料が安くて、延長保育があって、保母がたくさんゐて、つまり好条件の保育園の空きを待ってゐる児童のことと言ってもよい。

 都市部の保育園でも三歳以上の枠はおおむね余ってゐる。一方、無認可保育園などは児童不足に悩んでゐる。要するに都市部でも贅沢をいはなければ保育施設はいくらでもある。第一希望の保育園に入れなかったとしても、だから子供の生存が脅かされるといふわけでもない。お受験で希望する幼稚園に入れなかった子供はいっぱいゐる。中学受験で希望する中学校に入れなかった生徒はいっぱいゐる。大学受験で希望する大学に入れなかった学生はいっぱゐる。どうして保育園だけ志願者の希望を百%満たさなければならないのだ?

 公立保育園でゼロ歳児一人を預かるのに年間にどれだけ費用がかかるか? 正解。500万円から600万円。経費の大部分は人件費である。公立保育園の保母は公務員だから、年収1千万円の高給取りがゴロゴロゐる。パートの年収100万円の母親が子供を公立保育園に預けると、その子供の世話に従事する保母が年収1千万円。善良なる納税者は「なんだか少し変だなァ」と考へるが、母親は保母の人件費がいくらかからうが知ったことじゃない。保母も高給が確保されれば文句はない。かうして保育園には税金が注ぎ込まれ、保育園経営はカネのかかる事業といふのが定説になった。片や無認可保育園は補助金さへもらへず、認可と無認可の格差は拡大した。

 今じゃ忘れたやうなフリをしてるけど、自治労は長い間、夜間保育の実施に反対してきた。保育労働者の労働強化になるといふ理由で。そしてパート保母の導入にも反対してきた。自治労や共産党の強い地域では保育園の在所児童は定員を下回るのが常だった。この一種の「サボタージュ」を自治労は「保育の質を上げるために」と説明してきた。かういふのをむかしは税金ドロボーと言った。

 自治労と足並みをそろへてきた厚生労働省も最近漸く高給保母の保護政策を放棄し、公立保育園の民営化方針を打ち出すに至った。ところが共産党は相変らず「民営化で保育の質を落とすな」と全国で民営化反対運動を展開してゐる。保育園の世界は以前から共産党の金城湯池で(今は学童保育も)、待機児童が存在しなくなると共産党としてもマズイのである。

 保育園をたくさん作らない。これが厚生省の一貫した方針だった。保育事業に市場原理を導入することは絶対に避けるべきこととされた。希望する保育園に100%入所できる状況が達成されたら、あとは空きが出るだけだ。公立保育園と私立認可保育園の既得権を守らなければならない。保育園が足りない、待機児童がこんなに存在すると思はせておかないと財務省に保育予算を削減されてしまふ。簡単にいふと「待機児童」は関係者の利害のために人為的につくられてきたのである。

 で結局、保育園事業でうまい汁を吸ってきたのは、巨額の補助金を自由にできる厚生省と、自治労に共産党。五年間子供を公立保育園に預けると1500万から2000万円もの税金が使はれる。二人預けると4000万円。保育園に子供を預けてゐる母親は、国から巨額の援助を受けてゐるといふ事実をみようとしない。さういう人たちが今、専業主婦は待遇がよすぎる、配偶者控除はなくすべきだと叫んでゐる。4000万円返してから言へ!


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