男性助産師の誕生で利益を得る人々


 女にできて男にできないことがひとつだけある。子供を産むこと。こんな気の毒な男性の境遇に同情した女性が「男の人にもお産を手伝はせてあげませう」と言つて、助産婦の仕事を男性にも分け与へてくれた。かうして我が国に「助産師」が誕生することになつた。

 聞くところによると、女性のほとんどは「夫以外の男性に恥づかしいこところを見られたくない」と猛反対したんださうだ。ところが男女共同参画社会の理想に燃える女性たちが「今は男だ女だと言つてゐる時代ぢやない」と一喝したんだと。

 この頃女房の出産に立ち会ふ亭主が増えてゐるけれど、近い将来には、亭主が立会ひ、診察する産婦人科医も男、世話をする助産師も男といふ光景がみられるに違ひない。これぞ男女共同参画社会の理想の出産! しかし、田代まさしみたいな男が助産師になつたら一体どうなるんだらう。

 そこで私は、山歩きの会で付き合つてゐる開業医の知合ひに聞いてみることにした。

■男性助産師に看護婦が付き添ふ

―女性の間には、田代まさしみたいな助産師が出現するのではないかと心配する声もありますが。

「けしからん動機をもつた男が助産師を志しても不思議はないね。助産師の試験を受けるには、看護の学校と助産の養成所に通ふ必要があるけど、期間は三‐四年だ。医者は大学で六年間勉強しなけれならないし大学の受験勉強もあるので、不純な動機を抱いて医師を志す間はそんなにゐない。でも助産師の


■男女共同参画社会の理想

 女にできて男にできないことがひとつだけある。子供を産むこと。こんな気の毒な男性の境遇に同情した女性が「男の人にもお産を手伝はせてあげませう」と言つて、助産婦の仕事を男性にも分け与へてくれた。かうして我が国に「助産師」が誕生することになつた。

 聞くところによると、女性のほとんどは「夫以外の男性に恥づかしいこところを見られたくない」と猛反対したんださうだ。ところが男女共同参画社会の理想に燃える女性たちが「今は男だ女だと言つてゐる時代ぢやない」と一喝したんだと。

 この頃女房の出産に立ち会ふ亭主が増えてゐるけれど、近い将来には、亭主が立会ひ、診察する産婦人科医も男、世話をする助産師も男といふ光景がみられるに違ひない。これぞ男女共同参画社会の理想の出産! しかし、田代まさしみたいな男が助産師になつたら一体どうなるんだらう。

 そこで私は、山歩きの会で付き合つてゐる開業医の知合ひに聞いてみることにした。

■男性助産師に看護婦が付き添ふ

―女性の間には、田代まさしみたいな助産師が出現するのではないかと心配する声もありますが。

「けしからん動機をもつた男が助産師を志しても不思議はないね。助産師の試験を受けるには、看護の学校と助産の養成所に通ふ必要があるけど、期間は三‐四年だ。医者は大学で六年間勉強しなけれならないし大学の受験勉強もあるので、不純な動機を抱いて医師を志す間はそんなにゐない。でも助産師のやうに三‐四年なら頑張つてみようといふ奴も出てくるんぢやないかな。国家試験なんて難しくないし。看護婦も助産婦も国家試験の合格率はほぼ百%だ。」

―そんなに簡単に助産師になれるんなら、一部の男にとつてはたしかに「魅力的なお仕事」ですね。

「でも助産婦と同じやうにはやらしてくれんだらう。今でも男性の産婦人科医が局部を内診したりする時は、女性の看護婦の立ち会ひが必要なんだ。だから男性助産師でも内診する時には看護婦を立ち合はせることになるだらうな。助産院の助産婦は一人で妊婦の家に行くけど、男性助産師には女性の同行が義務つけられるだらう。」

―助産婦がひとりゐればすむのに、男性助産師になると二人の人手が必要になるなんて、何だかをかしいですね。まるでお目付け役だ。今、男の看護士は病院でどんなことをやつてるんですかね?

「かつては精神科や手術室での仕事が多かったけど、今は職場の範囲も広がってきてゐる。でも患者が若い女性なら、排尿介助したり身体を拭いたりするのは看護婦に交替してる。」

■助産院のホストクラブ化にディスカウント助産院の出現

―看護学校なんかでは、男性も助産の実習をしてゐるとか。

「母性看護学の実習のことだらう。母性看護学の実習は、以前は男だけ精神科の実習なんかに振り替へてたけど、今は男女同じやうにやつてる。妊婦も男の看護学生のどちらもえらく緊張してやつてるよ。男の助産師が誕生しても妊婦は男と女の好きな方を選べばいいといふ人がゐるけど、ありゃウソでね。助産師を志望する男性が増えたら、まづ彼らの実習をするために多くの妊婦が必要になる。実習なら妊婦も断りづらい。」

―最近、男性の産婦人科医はイヤと言ふ女性が増えて、女性ばかりの病院が人気を呼んでゐるさうですけど。需要と供給の関係で、男性の助産師なんかは結局淘汰されてしまふんぢやありませんか?

「男性の産婦人科医はたしかに減つていくだらうね。助産師もそんなに増えることはない。でもここだけの話だけど、助産職で男性の需要はあるんだね。ぼくの友人の産婦人科医が言つてゐたけど、ひんぱんに病院を訪れる妊婦がゐるんだつて。内診をすると性的な反応を示す。つまり彼女の通院は、これが目的なんだな。ひどいのになると、男性の産婦人科医をはしごする女性もゐるらしい。分かるだらう。彼女たちにとつては相手が助産婦ぢやだめなんだ。」

―男性助産師の出現を歓迎する女性もゐるといふわけか。

「男性助産師を売り物にする助産院も出てくるかもしれない。子供を産むだけならお金のかからない方がいいといふ女性もいつぱいゐるから、料金の安さを売り物にする男性助産院も出現するかもしれない。ディスカウント商売なんて、やつぱり男の方が得意だよ。」

―助産院のホストクラブ化にディスカウント助産院か。なんだかひどいことになつてきましたね。そんなにしてまで男の助産師をつくりたい人は一体何を考へてゐるんでせう?

「権力とカネ。これとジェンダー・フリーが結びついたんだね。助産婦をやめて助産師にといふ運動を続けてきたのが、看護婦や助産婦が加入してゐる日本看護協会といふ社団法人。それから厚生労働省と自民党。日本看護協会は、看護婦・看護士・保健婦・保健士・助産婦と分かれてゐる免許や名称を統合して、看護師に一本化したがつてゐたんだ。そして看護教育の場を4年生の大学にし、大学で看護師資格さえ取れば保健婦や助産婦の仕事もできるやうにするのが夢なんだ。」

■権力とカネとジャンダー・フリー

―看護師に一本化すると、どんなメリットがあるんですか?

「医師に薬剤師、みんな師だ。看護婦も看護師に昇格させて地位の向上をはかる。病院には介護福祉士なんかも増えてゐて、看護婦が介護福祉士を呼びつけて老人の下の世話をさせるなんて光景は日常的だ。看護師に昇格すれば権力も振ひやすくなる。もちろん待遇改善にもつながる。」

―そんな利害と男女共同参画社会の美名が結びついたわけか。

「さう。男女が共に子供を産み育てる社会づくりなんて言つてるけど、男女共同参画はジャンダー・フリーの別名だ。君も知つての通り、ジェンダー・フリーを掲げるフェミニストが目のかたきにしてきたのが「婦」といふ言葉でね。婦人、主婦、寡婦、情婦、みんなダメ。今度の「保健婦助産婦看護婦法」の改正で、看護師が看護師、准看護婦が准看護師、保健婦が保健師、助産婦が助産師になる。ジャンダー・フリーフェミニストにとつて、助産婦どころか看護婦、保健婦と目障りな言葉が一気に三つも消えてくれるんだから万万歳だ。」

―結局、男性助産師反対派はジェンダー・フリー思想に敗れたといふことですか。

「いや、さう簡単ぢやない。男性助産師に反対する側もジェンダー・フリーを掲げるフェミニストなんだ。反対派の中心人物は民主党の女性議員で、社民党の女性議員なんかも法改正の反対に回つた。彼女たちも本来はガリガリのフェミニスト。そして急進的フェミニストの一部もこちら側についた。男性助産師が出現したら男性による性支配が進むとか、男に助産婦の職業を侵略される可能性があるとか、フェミニズム・イデオロギーむきだしで反対論を展開してきた。これに対して男性助産師推進派のフェミニストが、そんな奴にジェンダー・フリーを言ふ資格はないと罵倒を浴びせて、その罵倒合戦の中に、男性への逆差別だといきまく奴や、田代まさし的な奴まで割り込んできて、大変なにぎやかさだつた。」

―フェミニズム陣営の仲間割れですね。

「政治絡みの話さ。民主党や社民党の女性議員にとつては、男性助産師導入が自民党で行はれたことが面白くない。日本看護協会は自民党の政治団体みたいなもので、男性助産師導入運動の中心になつてきた自民党女性議員は出身母体が日本看護協会。日本に看護職は百万人弱で、その半分近くが日本看護協会に所属してゐるから絶大な力がある。日本看護協会が民主党や社民党の支持団体だつたら、民主党や社民党の女性議員も男性助産師賛成に回つたはずだ。フェミニズム運動があるところ、かならず権力とカネの動きありだ。」

―なんだ、そんなウラ事情があつたんですか。なんにも知らないで、「夫以外の男性に恥ずかしいこところを見られたくない」なんて反対してきた女性たちが可愛さうだな。

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