我が国の法制度の中で、DV防止法の「保護命令」ほどまやかしに満ちた制度はないと思ふ。配偶者への接近禁止命令に違反しただけで、なんと懲役一年の刑をくらつてしまふのだ。このやうな常軌を逸した法制度は外国には存在しない。DV防止法改正案が成立すれば、この悪質な保護命令制度はますます危険性を帯びることになる。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik3/2004-03-26/02_01.html
DV防止法をよく知らない人は、DV防止法は家庭内暴力自体を取締る法律と思ひ違ひをしてゐる。大変な誤解である。DV防止法は、ドメスティック殺人罪とか、ドメスティック傷害罪とか、ドメスティック暴行罪とかを規定した法律ではない。
配偶者が配偶者を殺せば刑法の殺人罪が適用され、配偶者が配偶者を傷つければ刑法の傷害罪が適用され、配偶者が配偶者を殴れば刑法の暴行罪が適用される。つまり、家庭内の暴力事件も一般刑法で裁かれることに変はりはない。
刑法における殺人罪の最高刑は死刑である。これ以上重い刑罰はないから、(重罰を希望する人にとつて)夫婦間の殺人に刑法の殺人罪を適用することに何の問題もない。傷害罪も最高刑は懲役十年で、これも十分重い刑罰である。従つて、家庭内の暴力事件も、今の刑法があれば十分対応できる。
困るのは、フェミニストたちである。彼女たちの年来の願望は、ドメスティック・バイオレンスの「刑法版」をつくることだつたが、「刑法の壁」にはばまれてそれができない。この法律が、「配偶者暴力法」ではなく、「配偶者暴力防止法」となつてゐるのもそのためである。
が、フェミナチ連中は、どうしてもDV防止法に刑事罰を盛り込みたかつた。ドメスティック・バイオレンスの「犯罪性」を声高に叫びたてるために。そこで導入を図つたのが「保護命令」制度なのだ。
DV防止法の保護命令制度とは、配偶者から危害を加へられるおそれがある時、六ヶ月間の被害者への接近禁止、または二週間の住居からの退去を命じることができるといふ制度だ。違反すると一年以下の懲役、または百万円以下の罰金に処せられる。
保護命令制度は、仮処分と同じやうに民事上の手続きである。民事事件に刑事罰を持ち込むといふことの異常さは法律の専門家でなくても分かる。
少し細かい話をすると、保護命令制度は外国の一部の国にも存在する。しかし、それらの国においては通例、保護命令制度は法廷侮辱制度とセットになつてゐることを忘れてはならない。 法廷侮辱とは何か?
法廷侮辱は英米法にある制度で、刑事法廷侮辱と民事法廷侮辱があり、差し止め命令などに違反すると民事法廷侮辱により制裁金などが課される。しかし民事法廷侮辱の制裁金は違反状態の解消を促すためのもので刑事罰とは性格が異なる。
日本の法律にはもちろん法廷侮辱制度はない。そんなところに保護命令制度だけを持ち込んで、違反に懲役刑を課すといふのは、法秩序の破壊といふしかない。
マイクロソフトのビル・ゲイツが米司法省から訴へられて、一日百万ドルの支払ひを求められたのを覚えてゐる人も多いと思ふ。米司法省がこの訴への根拠にしたのが、法廷侮辱だつた。米連邦地裁が出した抱合せ販売禁止の仮決定をマイクロソフトが守らなかつたとして、法廷侮辱で制裁金を求め提訴したのだ。
このやうに、英米法の民事法廷侮辱はあくまで民事手続きの延長線上にある。ビル・ゲイツが仮決定に従はなかつたといつて、彼を逮捕して懲役刑を課すことは許されないのだ。このことからも、我が国のDV防止法の異常性が理解できるるだらう。
DV防止法の保護命令制度は、外国の保護命令制度とは似て非なるもの。我が国のフェミニストが発明した世界に類のないフェミナチ制度と言へる。DV防止法を策定した参議院共生社会調査会のフェミニスト議員たちは、保護命令の立法例は外国にもたくさん存在すると宣伝してゐるが、このやうなウソがいつまでも通用すると思つてゐるのだらうか?
DV防止法改正案では、保護命令制度に子供への接近禁止条項も設けられた。これも、とんでもない規定である。欧米では離婚した夫婦の間でも、別れた親を子供と面会させないのは子供の権利侵害とみなされる。場合によつては親権を剥奪されてしまふ。子供への接近禁止はそれほど重大な権利侵害なのだ。
夫婦の間に紛争があつても、父親と子供との関係は悪くないケースは多い。それなのに、ことさら親と子供の面会禁止条項を設けたのはなぜか? 私に言はせれば、父親と子供を離間させる意図があるとしか考へられない。 自分の住居から退去させる期間を、現行の二週間から二ヵ月に拡大したことも悪質そのものである。期間拡大とともに、退去命令の再申立てができるやうにした結果、再申立てをした場合の退去期間は実に四ヵ月!
犯罪人でもないのに、自分の家に四ヶ月も帰れないといふ事態を想像してほしい。ホームレスにでもなれといふのか? 居住権と財産権の侵害であることは明白である。
フェミニストどもは、退去命令制度を導入する時には、緊急避難といふ理由をつけて二週間と設定したくせに、改正案の議論の過程で退去期間を一ヵ月に延長し、さらに最後の段階でどさくさにまぎれて一ヵ月から二ヶ月に延長してしまつたのである。たぶん、国会は審議ゼロで通過するだらうとタカをくくつて。陰険な手口といふしかない。
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