小泉首相の施政方針演説が行われてゐた頃、私はたまたま市役所にゐた。ロビーのテレビは衆議院の議場を映し出してゐた。丁度小泉首相の施政方針演説が終はつた直後だつた。自民党の議員たちはみなでかい口をあけてバカ笑ひしながら、ふんぞり返つて手を打ちならしてゐる。女の議員もはしゃいでゐる。
この議員たちは、小泉首相が施政方針演説で次のやうに宣言したくだりを聞いてゐなかつたのだらうか。
《象徴天皇制度は、国民の間に定着しており、皇位が将来にわたり安定的に継承されるよう、有識者会議の報告に沿って、皇室典範の改正を提出いたします。》
屈託なく小泉首相に拍手を送つてゐた自民党議員たちの表情には、国体を破壊する皇室典範改悪法案が今国会に上提されるといふ危機意識の片鱗もうかがへなかつた。この連中の愚昧ぶりは、小泉の暗愚さと好一対
をなしてゐる。強気を押し通す小泉がよりどころにしてゐるのが、これら自民党の愚昧議員たちなのだ。
施政方針の最後に、小泉首相は吉田松陰に言及した。
《幕末の時代、吉田松陰は、「志士は溝壑(こうがく)に在るを忘れず」、すなわち、志ある人は、その実現のためには、溝や谷に落ちて屍をさらしても構わないと常に覚悟している、という孔子の言葉で、志を遂げるためにはいかなる困難をも厭わない心構えを説きました。
私は「改革」を止めるなとの国民の声を真しに受け止め、明日の発展のため、残された任期、一身を投げ出し、内閣総理大臣の職責を果たすべく全力を尽くす決意であります。》
今回の施政方針演説が従来のものと違ふのは、フェミニズム施策がますます前面に出てきたこと(男女共同参画計画の推進の強調等)と、皇室典範改正方針が盛り込まれたことであるが、小泉首相は皇室「改革」を「溝壑に在るを忘れず」の気概をもつて貫徹するつもりらしい。
国体を破壊しようとしてゐる人間が、国体護持のために一生を捧げた吉田松蔭を引用するといふ滑稽さ。いや、この暗愚宰相は松蔭を引用しただけではない。自分を松蔭になぞらへてゐるらしい。もしかしたらこの男は、皇室「改革」を果たすことによつて、松蔭のやうに歴史上の英傑として名を残すことができると本気で考へてゐるのかもしれない。かうなると、歴史観がどうのかうのといふより、この人物の精神状態を疑ひたくなつてくる。
皇室典範改正に身命を賭すといふなら、はつきりさう言へばいいのに、「有識者会議の報告に沿って、皇室典の改正案を提出いたします」と、あくまで有識者会議を隠れ蓑にして押し通さうといふ姑息さ。信長を気取つたり、松蔭を気取つたりする輩のこの姑息さはどうだらう。この姑息さこそが小泉政治の本質なのだ。拉致問題しかり、靖国問題しかり。
小泉首相は1月26日、吉川座長ら有識者会議のメンバーと首相公邸で会食し、「みなさんのおつくりになつた報告書に沿つて、皇室典範改正案を今国会で成立させます。どうぞご安心下さい」と言明した。国会が始まつてからわざわざ有識者会議メンバーを慰労名目で官邸に引つ張り出した意図はなにか。「結論を出したのは有識者会議」と国民に改めて印象づけるためとしか考へられない。
さうかと思ふと、「女系天皇を認めないと、仮に愛子さまが天皇になられたとき、そのお子さまが男子でも(皇位継承権を)認めないことになる。それを分かつて反対してゐるのか」などと支離滅裂な発言をして、周囲を慌てふためかせてゐる。
小泉のこの言動は、ふた通りに解釈することができる
(1)女性天皇と女系天皇の違ひを理解していない。
(2)女性天皇と女系天皇の違ひは一応理解してゐる。その上で、女性天皇と女系天皇の違ひが理解できない国民を騙そうとしてゐ
る。
(2)のケースは、要するに、「愛子さまのお子さまが男性だつたら、また男性天皇に戻るんだから、まつたく問題ないじゃありませんか」といふまやかしのメッセージだ。
(1)の可能性ももちろんありうる。なにしろ、無知の塊みたいな人物なのだから。まあこのへんは、法案が国会に上程されて小泉首相が答弁に立つたら、即その場で満天下に露になることだらう。
そういへば、だれかが指摘してゐた。小泉といふ男は、あれだけ郵政、郵政と叫んでおきながら、郵政改革の具体的な内容については五分と説明できない、と。
皇室典範問題について、小泉首相が国会で一分と説明できないことは、ほぼ確実と思はれる。
| | |