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「世界日報」9月23日付け「持論時論」欄に掲載された教育基本法改正問題に関するインタビュー記事です。。
(回答部分の仮名遣ひは原文のまま)
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【教育基本法改正と次期政権】
評論家 千葉展正氏に聞く
《政府案を白紙にし、一から出直せ》
自民党新総裁に選ばれた安倍晋三氏は今月二十六日の臨時国会で新首相に指名され、直ちに新内閣を発足させる。安倍氏は「子供たちが、生まれ育った国に静かな誇りを持てる国をつくっていく」と述べ、教育基本法改正に強い意欲を持っている。評論家の千葉展正氏に、与党が先の通常国会に提出した教育基本法改正案について聞いた。
(聞き手=編集委員・鴨野 守)
■現行法の根幹残す法案/盛り込まれた「男女共同参画」
――千葉氏は先の国会に提出された与党教育基本法改正案について「形を変えた人権擁護法案であり、第二の男女共同参画社会基本法案である」と警告されています。その理由から伺いたい。
政府案は人権左派勢力に利用されさうな条文に満ちてゐます。第二条(五)の「他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」、第四条(2)の「国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない」、第一七条の「教育振興基本計画」条項などは特に危険です。(注)
自国の教育の大本を定める法律に、「他国」といふ言葉が出て来ることがそもそも異常です。「他国の尊重」を盛り込むと「他国には北朝鮮も含まれるので問題」といふやうな意見も強かつたのですが、公明党が押し切つたと言はれてゐます。左派勢力にとつて「他国を尊重」条項ほど利用価値の高い条文はありません。外国人差別問題でも外国人参政権問題でも何にでも使へますから。
障害者への支援を義務付けた障害者条項は左派教師を活気づけることになるでせう。今でも養護教育や養護学校は日教組教師と全教教師の巣窟(そうくつ)です。破廉恥極まりない性教育が養護学校を拠点に行はれてゐたことを思ひ起こして下さい。障害者条項は人権左派が人権条項の隠れみのとして盛り込んだ規定にほかなりません。千葉県では堂本知事が障害者差別禁止条例案を議会に提出してゐますが、人権擁護条例だと反発を食らふといふので障害者条例に目を付けたのですね。
教育振興基本計画は、男女共同参画社会基本法の男女共同参画計画条項を参考にしたものです。自治体を男女共同参画条例ブームに走らせた元凶がこの条文なんですが、文部科学省はこれをまねして全国の自治体に教育基本条例を作らせようとしてゐるのです。
それから、男女共同参画社会基本法との関係です。改正案の第二条「教育の目標」の(三)として、「正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」といふ条文がありますね。この中に登場する「男女の平等」がまさしく「男女共同参画」のことなのです。
平成十五年三月に出された中央教育審議会の最終答申には、新教育基本法の新たな理念として「男女共同参画社会への寄与」といふ文言が入つてゐたのですが、この文言に各方面から猛反対が起きました。政府案の原案を作成したのは「与党・教育基本法改正に関する検討会」ですが、検討会は、最終段階まで「男女平等」条項を隠し、平成十七年七月の教育基本法仮要綱案に「男女の平等」をこつそり忍び込ませるといふ姑息(こそく)なことをやつてゐます。ちなみに現行基本法には、第五条に「男女共学」の規定がありますが、「男女平等」といふ表現はありません。
第二条「教育の目標」条項において、「男女の平等」が登場するのは(三)です。例の「我が国と郷土を愛するとともに」が出てくるのは第二条の(五)ですね。つまり、フェミニズム条項は「国を愛する」条項より優先順位が高いのです。
「男女の平等」イコール「男女共同参画」ですから、この法案が成立すると、「男女共同参画」がわが国の教育理念になる。さうなつたら、もうフェミニズムの暴走を止めることは不可能だと思ひます。
――保守陣営は法案の中に、「愛国心」「宗教的情操の涵養(かんよう)」の明記、そして「教育は不当な支配に服することなく」の削除の有無に関心が向き、それで評価を下しがちですが、千葉氏はこれについてはどうお考えですか。
この三つを私は教育基本法三点セットと呼んでゐるのですが、保守派の人々の多くは三点セットが認められたら改正に賛成すると言つてゐるやうです。
GHQ(連合国軍総司令部)は教育基本法の日本側原案から「伝統」「宗教的情操の涵養」を削除させ、「不当な支配」を入れさせました。「愛国心」はGHQがどうせ認めてくれないだらうと初めから入れなかつた。つまり三点セットに関心を向ける人たちは、GHQの圧力によつて改変されたりした部分だけを問題にしてゐるわけです。
教育基本法の制定過程を振り返つてみると、CIE(民間情報教育局)の管理下にあつたのは事実ですが、そもそも教育基本法を発想したのは田中耕太郎(当時文部大臣)でした。憲法のやうにマッカーサーから全文を押し付けられたわけではなく、原案は田中主導の下に日本側が策定したのです。
現行基本法は第一条において、「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として」うんぬんと教育の目的をうたつてゐますが、教育基本法の根本理念に「人格の完成」を据へたのは田中耕太郎です。カトリックの田中は教育の目的は「人格の完成」に尽きると考へてゐた。しかし、抽象的な「人格の完成」といふ文言が何の教育的効果ももたらさず、基本法にちりばめられた進歩的文言が左派勢力に利用されてきたことはご承知の通りです。
政府案には、「日本国精神にのっとり」といふ前文や、第一条の「教育の目的」など現行基本法の根幹部分がそつくり残されてゐます。政府改正案は現行基本法の見直しといふより、現行法を全面的に踏襲した上で、人権だとかフェミニズムだとかの不純要素を付け加へようとしてゐるとしか思はれません。三点セットにしか関心のない人たちには、その視点が完全に欠落してゐる。
■民主党案は「権利」強調/根底に「学習権」という思想
――これに関連して、一部の保守系の文化人や政治家などの間に、まだ民主党の改正案の方が、愛国心などの表記を含めてすっきりしている。民主党案に学べ、という意見まで出ています。
民主党案は、現行教育基本法を廃止して新たに「日本国教育基本法」を策定するものですが、民主党法案に「権利」といふ言葉が何回登場するかご存じですか?
七回です。「学ぶ権利の保障」だとか、幼児期の子供が最善な教育を受ける権利だとか権利のオンパレード。権利の強調といふ点では政府案の上を行つてゐると言へるでせう。
民主党の教育基本問題調査会が昨年四月に発表した第一次中間報告には、新基本法の「根本理念」として「国民の学習権」の明確化が挙げられてゐました。
「学習権」の説明はかうです。「国民主権の本旨に立ち返り、また、国際的にも国民の学習権説をとる国も多いことなども参考にし、我が国においても、すべての人々が学習権を有し、そのための十分な支援を受けられる旨、明記することが望ましいとの意見が多数を占めた」
要するに、民主党案の根底にあるのは「学習権」といふ新しい思想なんです。「学習権」を教育基本法の根幹に据ゑれば、教育現場はどうなるか。権利を声高に叫ぶ風潮が加速するのは確実です。
確かに民主党案には、「日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い」といふやうな、政府案にはない文言が入つてゐます。でもこれらの文言はあくまで、自民党を攪乱(かくらん)し、政府案をつぶすために盛り込んだものです。その証拠に、民主党幹部は党内左派グループに「どうせ民主党案が成立することはないのだから目をつぶつてくれ」と言つたさうです。これほど国民をばかにした話はありません。
――では、ベストの基本法改正案を作るためには最低限、どの部分を加筆または修正削除したらよいとお考えですか。
私に言はせれば、政府案は少々いじる程度で欠陥が修正できるやうなものではありません。政府案には公明党、自民党左派、文部科学省のそれぞれの思惑が盛り込まれてゐる。安倍新総理は臨時国会の最大の課題として教育基本法改正と「防衛省」昇格関連法案を挙げてゐますが、教育基本法改正と「防衛省」昇格関連法案が抱き合
はせになつてゐることに注意していただきたい。自民党は教育基本法改正で公明党に譲歩し、その代はり公明党は防衛省を認める。これが自公の合意事項です。これをもつてしても、政府案がどれほど公明党寄りにできてゐるかお分かりになると思ひます。
平成十一年に男女共同参画社会基本法案と国旗国歌法案の成立が裏取引されたことを彷彿(ほうふつ)させます。国家百年の大計となる教育基本法がこのやうな党利党略で決められていいのでせうか。政府案は与党検討会が密室で作つたものです。安倍新総理は政府案を白紙に戻して一から出直すべきだと思ひます。
政府案を推進する自民党議員の中には、教育基本法改正が憲法改正の動きに弾みを付けると主張する人がゐます。本気でそんなことを考へてゐるのでせうか。先ほど言つたやうに、政府案は「日本国憲法の精神にのっとり」と宣言してゐます。これも公明党の主張で入つたものですが、政府案が現行憲法の恒久化を意図してゐることは明らかです。
――安倍氏は、新首相に就任した場合、日本の子供が「世界一の学力」を獲得できるよう基礎学力を強化させるという構想を発表しています。千葉氏は、この実現のためのポイントは、どこにあるとみていますか。
基礎学力を強化するには総合学習の廃止と国語時間数の増加が急務と思ひます。ところが政府案の第三条には「生涯学習の理念」(「国民一人一人が、(略)その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」)が掲げられてゐる。生涯学習は「ゆとり教育」の別名なんですね。学校で勉強しなくても社会に出てから勉強の機会はいくらでもあると、寺脇研氏をはじめとする文科官僚はゆとり教育を推進してきました。
ゆとり教育の破綻(はたん)が明らかになり、文科省は今、ゆとり教育からの転換を図つてゐるやうに見えますが、ゆとり教育路線を放棄したわけではない。いつ、ゆとり教育路線に回帰しないとも限らない。さうなつた時、基本法の生涯学習条項は文科省にいいやうに利用されるに違ひない。基本法改正を考へるに当たつては、改正によつて何ができるやうになるかより、文科省に何をさせないかといふ視点を忘れてはなりません。文科省は昔の文部省ではないのです。
(原稿は、本人の希望で旧かなを使用)
(注)
第一七条 政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
2 地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。
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